目次 [非表示]
序章:「あ、これ前にも見たことある気がする…」
誰にでも一度はあるはずだ。
初めて訪れたカフェなのに、なぜか知っているような感覚。
友人との何気ない会話が、「前にもまったく同じことを言った気がする」と背筋をゾクッとさせる。
それが――デジャブ(Déjà vu)。
この“既視感”をめぐって、世界中の研究者たちが真剣に研究しているのをご存じだろうか?
今回は、**過去20年分の主要なデジャブ研究をぜんぶ読んでわかった「脳のふしぎ」**を、わかりやすく紹介する。
第1章:そもそも「デジャブ」って何?
デジャブは、フランス語で「すでに見た」という意味。
しかし実際には“初めて”の体験であるにも関わらず、「体験したことがある」と強く感じる現象だ。
驚くべきことに、人類の60~80%が人生で一度は経験するとされている。
10代後半から30代がピークとされ、加齢とともにその頻度は減少する傾向にある。
第2章:「記憶の誤作動」説──脳が“混線”する?
もっとも有力とされてきたのが、「記憶の誤作動」説だ。
これは、記憶を司る海馬や側頭葉の一時的なエラーによって、新しい出来事が「過去の記憶フォルダ」に誤って分類される、という説。
イギリスの精神科医ヴァイルド博士によれば、
「デジャブとは“脳の検索エンジン”が暴走している状態だ」
まさに、まったく新しい体験に「似たような構図や空気感の記憶」が上書きされて、
**既視感という“幻の既知”**が生まれるのだという。
第3章:神経の“電気的ショート”説──てんかん患者の証言から
また、てんかん患者の発作前に高頻度でデジャブを経験することが知られている。
この現象から、「側頭葉てんかん」研究の第一人者、ジョン・ハロウェル博士はこう述べている。
「側頭葉の異常な電気信号が、脳内の“時間軸”を狂わせる」
つまり、本来“今この瞬間”として処理すべき出来事が、
“すでにあった出来事”として脳に誤認識される。
一部の研究では、健康な人でも微弱な電気信号異常でデジャブを起こす可能性があることも報告されている。
第4章:AIとデジャブ──「似た情報を誤分類する」現象は人間だけじゃない
最近では、人工知能(AI)にも似た現象が確認されている。
画像認識AIが「初めての画像」にも関わらず「すでに学習した」と誤判定することがあるのだ。
この現象は「False Positive」と呼ばれ、
人間のデジャブに非常によく似ていると指摘されている。
つまり、「なんとなく似ている」だけで、脳(もしくはAI)は“既知”と判断してしまう。
このことから、人間の脳は「記憶の精度よりスピードを優先」しているという説も浮上している。
第5章:夢とデジャブの関係──「夢で見た気がする」は本当?
多くの人がこう感じたことがあるはずだ。
「あれ?これ、夢で見た場面だ…!」
この「夢との関連性」について、スタンフォード大学の研究チームが2020年に行った調査では、
デジャブのうち約30%が“夢と関連がある”と被験者が報告したという結果が出ている。
しかし、脳科学的に「夢の記憶」と「現実の記憶」は極めて曖昧で区別がつきにくいため、
この説を立証するのは極めて難しいとされている。
第6章:デジャブの“メリット”ってあるの?
実は、デジャブにはポジティブな側面もある。
・記憶の精度が高い人ほどデジャブを感じやすい
・感情的な記憶を保持しやすく、創造性が高い傾向
・「危険察知能力」が優れているとする論文も存在
つまり、デジャブは単なるエラーではなく、
**「記憶を活用して未来に備える能力」**とも言えるのだ。
終章:デジャブは、あなたの「記憶のセンス」がいい証拠かもしれない
デジャブは不気味でミステリアスな現象ではあるけれど、
最新の研究を紐解くと、人間の記憶の柔軟さと複雑さを物語っている現象だと気づかされる。
そして同時に、それはあなたの脳が常に「過去」と「未来」を結びつけようとしている証拠でもある。
次に「あれ?前にもこの場面あったかも」と感じたら――
「それはあなたの脳が優秀な証かも」と、ちょっと誇らしく思ってみてほしい。