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地球がちょっとだけ“のんびり”回る日
「ダムに水がたまったら、地球の回転が遅くなる」──まるでSFのようなこの話、実はNASAも言及している“事実”です。
世界最大のダム「中国・三峡ダム(さんきょうダム)」。そのスケールは、単なるインフラを超え、地球の物理にまで影響を与えるほどの存在感を放っています。
今回は、この巨大ダムが地球の“時間”にまで触れるという、とんでもないスケールの話を、科学とロマンを交えて深掘りしていきます。
■ そもそも三峡ダムってどれだけ大きいの?
中国・長江に建設された三峡ダムは、2009年に完成した世界最大級の水力発電用ダム。
- 高さ:185m(ビル約60階分)
- 総貯水量:約393億立方メートル(東京ドーム換算で約3150杯)
- 発電量:年間約1000億kWh(日本の全世帯の約1/7をまかなえる)
つまりこれは、「人類が作った中で最も自然に影響を与える建造物のひとつ」とも言えます。
■ 自転が遅くなる理由は「質量移動」だった
ではなぜ、ダムが地球の自転に影響するのでしょうか?
その鍵は、**「角運動量保存の法則」**という物理の基本にあります。
地球のような回転体は、重いものが中心に近づけば速く、外側に移動すれば遅くなる。
三峡ダムに水が溜まることで、地球の質量分布がわずかに変化します。大量の水が“赤道に近い場所”に固定されることで、回転のバランスが微妙にずれるのです。
NASAによると、この効果により地球の自転が0.06マイクロ秒(60ナノ秒)遅くなる可能性があるとのこと。
■ たった60ナノ秒?でも実はすごいこと
「え、それだけ?」と思った方。たしかに、人間が体感できる遅れではありません。
しかし、この“たった60ナノ秒”を地球規模で計測し、計算できる人類の科学力の方がすごいとも言えます。
例えるなら、大相撲の力士が小さな釘1本を持っただけで地球が回るスピードに影響が出るような話。それくらい地球は繊細なバランスで成り立っているという証でもあるのです。
■ 実は他にもある「人類の自転ブレーキ」
三峡ダムだけでなく、人間の行動が地球の自転に与える影響は他にもあります。
1. 地球温暖化による氷の融解
南極やグリーンランドの氷が解けて海に流れ込むことで、質量が赤道側に移動し、自転速度が変わる。
2. 地震による質量変化
2011年の東日本大震災では、自転速度が1.8マイクロ秒短縮されたというデータもあります。
3. 人工衛星や国際宇宙ステーションの打ち上げ
これも質量の移動としてごくわずかな影響があるとされています。
つまり、私たちは知らぬ間に“地球の時計”に指を触れているわけです。
■ 「人間は、地球のリズムに干渉している」
この話の面白さは、「目に見えないけれど、確実に影響している」ことにあります。
三峡ダムは、便利な電力供給装置であると同時に、地球という星の“体重バランス”をいじる存在でもあるのです。
水を溜めることで、1日の長さがほんの少し変わる。
──そんな話を知ったとき、私たちは「時間」や「自然」を、もう一度別の角度から見ることができるのではないでしょうか。
■ まとめ|時間と自然に“耳をすます”
現代の科学が教えてくれるのは、「人間の営みがどれだけ広範囲に影響を及ぼすか」です。
三峡ダムが地球の自転を遅くする──その一文の裏にあるのは、「人類と自然の関係性の再確認」でもあります。
次に時計を見るとき、ほんの少しだけ、“地球の鼓動”を感じてみてください。